両国国技館には協会員専用の地下食堂がある。一般でいう社員食堂だ。
そこで提供されているカレーは、親方や新弟子、協会員まで、日本相撲協会に関わるすべての人が慣れ親しみ、誰でも1度は食べたことがあるという人気メニュー。
職人さんに受け継がれ、昔から変わらないレシピで作られている地下食堂のカレーを「国技館カレー」は忠実に再現している。
今回、国技館カレーの開発ストーリーを髙崎親方(元 金開山)に伺った。
今も昔も愛される、地下食堂の名物カレーの秘密とは。
ちゃんこではなく、地下食堂のカレーがお相撲さんのおふくろの味
「相撲って教習所に入門したら、新弟子の半年間、授業を受けるんです。その期間、みんなお昼を地下の食堂で食べるんですよね。平日は授業があって、必ずおいしいカレーが出てきて。」
日々座学・実技に勤しむ中、お昼の時間が本当に楽しみだった、と親方。
相撲教習所とは日本相撲協会が新たに入門した力士を指導教育する施設で、両国国技館の敷地内にあるため、お昼はみんなそこの地下食堂で取る。
現役引退後、親方となり業務的な仕事になってから、再び国技館で地下食堂を利用するようになった高崎親方。
15日間の場所中、隔週ペースで提供されるカレーの日を狙って食べに行くこともあった。
「久しぶりにカレーを食べたら懐かしくて。改めてこんなにおいしかったんだと感じました。地下食堂のカレーが我々のおふくろの味なんですよね。新弟子の半年間必ず食べてるから。」
新弟子の頃食べていた地下食堂のカレーを再び食べるようになり、10年程経った頃
「いつかこの味をみんなに楽しんでもらえるようにできたら」
と思うようになった。
親方発案で決定した国技館カレーの商品化
この味を国技館以外でも食べられる様にしたい、と思い始めたある日、某有名ホテルのレトルトカレー「アパ社長カレー」を目にした親方。
これはいいアイディアだと関心すると同時に、あのカレーを商品化する気持ちが強くなった。
「国技館の地下にもおいしいカレーがあるじゃない!」
当時、相撲協会ではグッズの製作はしていなかった。
相撲関連のグッズは国技館サービス社によって作られており、国技館の売店に置かれているものは全て国技館サービス社から卸した商品だった。
ちょうど相撲協会でも自分たちでグッズ開発をしてみようという話が上がっていたこともあり、親方の発案でカレーの商品化が決定した。
「みんな言葉では、やろう!とかいいね!とか言うんですよ。でも実際に行動に移して販売するのはなかなか難しいから、実現することになって本当に良かった。」
勇んで取り組んでみたものの、とにかくみんな素人だった
自分たちで商品開発してみよう!国技館カレーを作ろう!と決まってから発売されるまでに、実に1年を要した。
「あの時僕らは何もかも素人で、色んなレトルトカレーを買って来て、どういうカレーにしようかと、とにかく食べ比べました。でも、ちょっと待てよ?僕らはただ、今あるカレーを再現するだけなんだから、別に他のカレーを食べる必要ないよなって途中で気づいて。それくらいみんな素人だったの。」
親方や協会員、みんなが商品企画自体初めてだった。
試行錯誤しながら商品開発が進んでいき、製造業者も数社に絞られた。中にはコンセプトを掲げるべき、と提案してくれた業者もあったが、親方は「昔から食べている地下食堂のカレーを再現する、ただそれだけでいいんだ。」と一貫してぶれなかった。
最終的にはスピードと再現度を優先してくれる業者に固まった。
国技館カレー、それは親方にとって大切な、思い出の味
相撲ファンにとって、親方や現役の力士が若い頃から慣れ親しんだカレーを食べられることはとても喜ばしいことだろう。
国技館カレーは親方目線で作られている。
協会員にとっては地下食堂の社食としてなじみの深いカレー、そして親方にとっては新弟子の頃半年間食べていた、若き日の思い出の味なのだ。
「食堂のカレー自体に歴史がある。昔から全然味が変わらないもん。食べてすぐ思い出したよ。新弟子の頃に食べたカレーだって。おいしいなって。」
具材は豚肉と玉ねぎのみ。それは「みんなが食べられるように」と、食べる人のことを考えて作られた職人のこだわりでもある。
ここでしか手に入らないものを作ろう、そう思ったのが原点
「もともと商売をしようとしてるんじゃないから。本業は相撲でしょ。今でも本業の相撲を見ていただくことがベースなんですよ。」
わざわざ国技館に足を運んでくれたお客様のため、ファンサービスのような気持ちで作られた国技館カレー。
今やスーパー等でも置いている店舗があるほど人気商品となったが、当時は国技館でしか手に入らない、そんな付加価値のあるものだった。
原点にあるのは、相撲を観るために国技館に来てくれたお客様のための商品だということだ。
それは価格にもしっかり反映されている。社食の価格がベースになっており、それを基に設定した。
「価格は必ず400円。それもこだわりました。高くもなく安くもなく。」
あくまでも本業は相撲。
お客様に喜んでもらえる、少しでも相撲を身近に感じてもらえるように、今後も商品を考えていきたいと親方はいう。
「迷ったらポチッと押してください(笑)。迷うくらいだったらね!自信を持って作ったので、ぜひ食べてみてください。」